家紋考証 意匠考証

近すぎる史跡と小早川隆景公。名島城に息づく「左三つ巴」の曲線美と引き算のデザイン

「いつでも行ける場所ほど、案外行かないもの」 皆さんも、地元でそんな経験はありませんか?

現在、福岡を拠点に活動している私ですが、実はお恥ずかしながら、あの毛利両川の一角・小早川隆景公の居城であった「名島城」や、戸次道雪公の「立花山城」にはまだ行ったことがありません。 生活圏内で近くを通ることは何度もあるのですが、「近いから、また今度バイクでふらっと行けばいいか……」と、ついつい後回しにしてしまっていたのです。まさに灯台下暗しですね。

しかし、こうしてご縁あって「日本意匠製作所」というサイトを立ち上げ、家紋や歴史の意匠と日々向き合うようになったことで、改めて地元の史跡が持つ圧倒的な熱量に気づかされました。

そこで今回は、かつて約6年間この福岡の地に住んでいた有名戦国武将・小早川隆景公と、彼が掲げた美しき家紋「左三つ巴(ひだりみつどもえ)」について、少し深掘りしてみたいと思います。


🏯 秀吉との駆け引きと、博多湾を望む「海城」のロマン

時は天正14年(1586年)。豊臣秀吉公の九州征伐が無事に終わり、その多大な功績から、隆景公は筑前・筑後・肥前1郡の37万1,300石という広大な領地を与えられました。

しかし当時の毛利本家は、所領が8カ国にも及ぶ巨大な勢力である一方で、当主の毛利輝元公はまだ若く、共に毛利を支えてきた吉川元春公はすでにこの世を去っていました。隆景公は「輝元公の側を離れて九州に行くわけにはいかない」と、この破格の恩賞を固辞したそうです。 しかし、九州の最重要拠点をどうしても信頼できる隆景公に任せたい(あるいは、毛利本家の力を少し削ぎたいという思惑もあったのかもしれません)秀吉公はこれを認めず、結果として隆景公は筑前・筑後を領して在国することになります。

そうして天正17年(1589年)、隆景公が入城したのが筑前国「名島城」です。 名島城は、博多湾に突き出た半島に位置し、三方を海に囲まれた天然の要害でした。水軍を巧みに操る毛利・小早川家にとって、海と直結し、船の出入りが容易なこの城は、まさに理想的な「海城」だったはずです。

その後、文禄4年(1595年)に小早川秀秋公に家督を譲って備後三原へ隠居するまでの約6年間、隆景公はこの博多湾の潮風を感じながら、福岡の地で政務を執っていました。

🌀 躍動する永遠のループ「左三つ巴」の謎

そんな水軍を率いた名将・小早川隆景公が用いていたのが、日本の代表的な巴紋である「左三つ巴」です。 頭(丸い部分)が左側(時計回り)に向かって流れるこのデザインは、皆さんも神社や和太鼓などで一度は目にしたことがあるはずです。実はこの紋には、非常に興味深い由来がいくつも存在します。

  • 西園寺実季の牛車紋 平安時代後期、公家の西園寺実季が、自分の牛車(当時の超高級マイカーですね)を他と区別するために独自のマークとして描いたのが始まりとされています。
  • 武に通じる「鞆(とも)」由来説 弓を射る際に左手首を守る防具「鞆」をデザインした「鞆の絵」が、転じて「巴(ともえ)」になったという説。のちに新選組の土方歳三が使用したことでも知られ、武の象徴として多くの武家に愛されました。
  • 水が渦巻く「火災除け」の祈り 古代の勾玉の形、あるいは水が激しく渦巻く様子を象徴しており、木造建築が多かった時代に「火災を防ぐまじない」としての願いが込められています。水軍を率いた小早川家にとっても、水にまつわるこの意匠は非常に相性が良かったことでしょう。

さらに、八幡神社の神紋としても非常に有名で、祭神である誉田別命(応神天皇)の体に三つ巴のアザがあったという神秘的な伝承まで残っています。 公家が愛した雅な印であり、武家が頼った力強さの象徴であり、神社が掲げた神聖な祈りでもある。ひとつのデザインにこれほど多様な意味が込められているのは、本当に面白いですよね。

小早川家家紋三つ巴
小早川家家紋三つ巴

💡 究極の「曲線美」を、現代の日常着へ

特定の家系や歴史の重みといった枠を一度外し、純粋な「デザイン」として見たとき、左三つ巴はコンパスで描いたような幾何学的な美しさと、今にもぐるぐると回り出しそうな動的なエネルギーを併せ持つ、完成されたグラフィックです。極限まで無駄を削ぎ落とした「引き算のデザイン」の極致と言えます。

日本意匠製作所では、この洗練された直感的なかっこよさを、「戦国武将シリーズ」のアイテムとして現代の日常着に落とし込んでいます。

直線的な家紋とは違い、曲線だけで構成された三つ巴は、服にプリントした時にどこか柔らかさと大人の色気が出ます。 ホワイトやブラック、ネイビーといった定番色はもちろん、アーミーグリーンやインディゴ、そして深みのあるバーガンディのTシャツに、この躍動感のあるシンボルをポンと配置する。 また、少し肌寒い季節には、ホワイトのスウェットや、サンドベージュのパーカーの胸元に、さりげなく歴史の息吹を忍ばせるスタイリングもおすすめです。

「この曲線のバランスがたまらなく好きだ」という直感で選んでいただける、究極の和製ロゴマーク。アウターの隙間からチラリと覗く三つ巴は、日常の中に静かな気迫を与えてくれます。

近すぎるからこそ見過ごしていた名島城跡。次の晴れた休日にはバイクのエンジンを掛け、隆景公が見た博多湾の海風を感じに、ふらっとツーリングへ出かけてこようと思います。皆さんも、身近な場所にある歴史のデザインに、ぜひ目を向けてみてくださいね。

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