家紋考証 意匠考証

九州の覇者と雷神が掲げた誇り。平安貴族の車紋をルーツに持つ「抱き杏葉(だきぎょうよう)」

今回は、豊後臼杵城を拠点とし、かつて九州の絶対的な覇者として君臨した巨大な名門「大友(おおとも)氏」と立花山城を拠点とし、と、その最強の分家である「戸次(べっき)氏(のちの立花家)」が誇りを持って掲げた家紋、「抱き杏葉(だきぎょうよう)」について、デザインの視点から深く紐解いてみたいと思います。

実はこの意匠、次回ご紹介する「佐賀の鍋島氏」との間に、とんでもなく血生臭くて熱いドラマを秘めているのですが……まずは本来の持ち主である彼らの、誇り高きルーツと極上のデザイン・ストーリーからお話ししましょう。

⚡ 海の要塞に君臨した覇者と、雷を斬った猛将

戦国時代の九州において、大友氏といえばまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの巨大企業のような存在でした。 代々の本拠地であった豊後府内(現在の大分市)から、1562年頃には難攻不落の海城である「臼杵城(うすきじょう)」へと拠点を移し、南蛮貿易の富と最新兵器を取り入れながら、最盛期には九州6か国を支配した絶対的な権力者です。

その大友家を軍事面で屋台骨として支えたのが、重臣であり一族(分家)でもある戸次氏、中でも「戸次鑑連(べっきあきつら)」、のちに「立花道雪(たちばなどうせつ)」と名乗る猛将でした。 彼は、若い頃に木の下で雨宿りをしていた際に落雷に遭い、なんとその雷の中の「雷神」を愛刀・千鳥(のちの雷切)で斬ったという、人間離れした伝説を持つ人物です。半身不随になりながらも合戦の際には輿(こし)に乗って最前線で檄を飛ばし、生涯で数十回の戦いに参加してほぼ無敗。博多湾を見下ろす立花山城を拠点に、まさに「鬼」や「雷神」と恐れられた戦国屈指の戦術家でした。

そんな九州の覇者・大友氏と、最強の矛である戸次氏が、自らの軍旗や陣幕に掲げた誇り高きシンボル。それが「大友杏葉」とも呼ばれる「抱き杏葉紋」です。

抱き杏葉
抱き杏葉

🍃 葉っぱではない?大陸から伝わった「馬具」と「貴族のルーツ」

この「抱き杏葉」、パッと見た印象はどのようなものでしょうか。左右対称の美しい曲線で描かれ、上部には花のような繊細な意匠があしらわれています。一見すると植物をモチーフにした優雅な和柄に見えますが、実は全くの別物です。

その正体は、なんと「馬の装飾具(馬具)」なのです。

「杏葉(ぎょうよう)」とは、もともと中国大陸から伝来した馬具の一種で、馬の胸や尻のあたりに革紐で吊り下げる金属製や革製の「飾り板」のこと。歩くたびに揺れてキラキラと光るこの装飾品は、権力や威厳を示すための重要なアイテムでした。この金属製の飾りの形が、植物の「杏(あんず)の葉」に似ていたことから、「杏葉」という雅な名前が付けられたと言われています。

杏

さらにこの意匠のルーツを辿ると、なんと平安時代にまで遡ります。 当時は武士のマークではなく、公家(貴族)たちが乗る牛車の文様、つまり「車紋(くるまもん)」として用いられていました。鎌倉時代にはすでに、閑院家(かんいんけ)や中御門家(なかみかどけ)といったトップクラスの公家たちが家紋として使用していた、非常に格式高く由緒正しいエリート・デザインなのです。

🔍 デザイナー視点で見分ける!「茗荷紋」との決定的な違い

ところで、家紋に少し詳しい方なら「あれ?これって『抱き茗荷(だきみょうが)』じゃないの?」と思われるかもしれません。確かにシルエットはそっくりなのですが、デザインのディテールを見ると決定的な違いがあります。

抱き茗荷
抱き茗荷
茗荷
茗荷

茗荷紋は、食べる植物のミョウガを図案化しているため、葉の表面に「葉脈の筋」が細かく描かれています。 対して、今回の大友・戸次家が用いた「抱き杏葉」には、葉脈の筋が一切ありません。馬具の金属板なので表面はツルッとしています。その代わり、先端部分には「毬花(まりばな)」と呼ばれる、花房のような美しい丸い装飾がポンッとあしらわれているのが最大の特徴です。

筋がなく、滑らかで洗練された曲線美。そして先端の可愛らしい毬花。 武将にとって命を預ける相棒である「馬のパーツ」を、平安貴族のエレガントな意匠で包み込んだこのグラフィックは、大友氏の「定紋(公式ロゴ)」として確固たるブランド力を誇りました。 大友氏は、合戦で大きな功績を挙げた家臣(立花氏や戸次氏など)に対して、最高の栄誉としてこの「杏葉紋」を与えました。現代で言えば、巨大グループ企業のトップが、最も優秀な子会社にだけ「本社と同じロゴを使ってもいいぞ」と許可を出すようなものです。こうして、抱き杏葉は九州の武将たちにとって「強さと名誉の象徴」として根付いていったのです。

💡 名門のプライドと美学を、日常着で纏う

優雅で繊細な曲線美に見せかけて、そのルーツは平安貴族の車紋であり、戦場を駆ける愛馬の無骨なパーツでもある。「美しさと力強さの二面性」を持つこの意匠は、純粋なグラフィックデザインとして非常に魅力的です。雷神・立花道雪も、このエレガントな紋を立花山城に掲げながら、戦場では凄まじい気迫を放っていたことでしょう。

日本意匠製作所が展開する戦国武将シリーズのTシャツでは、この洗練された二面性を現代の日常着としてお楽しみいただけます。

キャンバスとなるカラーは、ホワイト、ブラック、ネイビー、アーミーグリーン、インディゴ、バーガンディの全6色。 例えば、深みのあるインディゴやネイビーにこの意匠を乗せれば、優雅な曲線と毬花のアクセントが引き立ち、大人の渋いスタイリングに仕上がります。私のように188cm、90kgあるような大柄な体格でも、この曲線的で気品のあるデザインが胸元にあるだけで、無骨になりすぎず全体の印象をシャープにまとめてくれるのが嬉しいところです。

戸次鑑連 Tシャツ
戸次鑑連 署名、花押
戸次鑑連
戸次鑑連 抱き杏葉

これからの季節のツーリングなら、お気に入りのレザージャケットの下にこのTシャツを仕込んでおき、ヘルメットを脱いだ時に、ふと胸元の「名門の愛馬のパーツ」を覗かせるのも最高にカッコいいですね。

さて、絶対的な権力と強さの象徴であったこの大友家の「抱き杏葉」。 しかし、この誇り高き名門のロゴマークは、のちにある戦いで「敵に丸ごと奪い取られる」という、戦国時代ならではのパンクな大事件に巻き込まれることになります。

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